Episode 1
ブライアン・ワイス博士のパストライフセラピー・プロフェッショナル・トレーニングでは実習の時間がしっかりと取られており、皆それぞれクライアント役とセラピスト役に別れて実習したり、それらを見学したりして、トレーニングを積み重ねていきました。
最初に私が組んだのはアメリカ人男性のビルです。ビルはいつも笑顔の素敵な人で、ビジネスマンですが、自己向上の為にこのトレーニングに参加されたそうです。
「どんな誘導がいいかしら?」と聞くとビルは「即効誘導がいいんだけど。」と言いました。即効誘導とは瞬間的に催眠に入る方法です。
催眠に入った後、少しずつ体験を深めていくとビルは「だめなんだよ、やっぱりだめなんだよ。」と言ってとても怯えた表情で目覚めてしまいました。「ごめんよ、チエコ。」と自分が中断してしまったことを、とても責めているような様子でした。」問題がとても大きく深いようで、この場で催眠療法を先に進めるには心理的な抵抗があったようです。私は「いいのよ、ビル。無理をするのはやめましょう。いったんセラピーは終わりにしましょうね。続きはいつでもできるからね。」と言って、次に待っているクライアント役との実習に入っていきました。ビルは他のグループを見学していました。
そして実習時間が後半に差し掛かった頃、ビルが私のところにやってきて「チエコ、またお願いしてもいいかな?」と言いました。私は「もちろんよ。」と答えました。「今度はどんな誘導がいいかしら?」と聞くと「君の好きなやり方でいいよ。」と言ってくれました。私は少し時間をかけたほうがいいと思い、ゆっくりと催眠誘導をしていきました。
ビルは子供のころ朝食を食べている場面に戻っていきました。「幸せなんて感じたことないんだよ・・・。」とビルはとても悲しそうな表情で言いました。朝食を食べているときに、なんとカーテンに火がついてしまったそうです。小さいビルにとって火は思いのほか大きく感じられ、運よく気づいたお母さんは消し止めてくれたのですが、ビルは大変な恐怖を味わってしまっていたのです。
そのときからビルはずっと「自分が悪い子だからこんなことになってしまったのではないか。」と笑顔の下に自分を責め続ける気持ちを押し込めていたのでした。この小さい頃のビルをすっかり癒すと、今度はビルはジャングルに住んでいたころに退行していきました。
9歳の少年になったビルが木がうっそうと生い茂ったジャングルを歩いていると、目の前に大きなヒョウが立ちはだかっていました。
ヒョウは恐ろしい目でじっと少年をにらみつけ、少年は微動だにすることも出来ません。そして突然ヒョウが少年の肩に噛み付きました。このヒョウに襲われた小さな少年を救い出し、肩の痛みを取り除きました。そしてヒョウがもう襲ってこないよう少年を安全な場所に移してあげました。
催眠からさめた後のビルは今までになくスッキリとした表情で「ありがとう、チエコ。肩がとても軽くなったんだよ。本当だよ。」と言ってくれました。私が「ヒプノセラピーって、まるで出産みたいよね。」と言ったらビルは「出産だって?!」と目を丸くしていました。さらに私が「だって昔のつらい自分を解放すると、新しい自分が生まれてくるんだもの。」と言ったら、ビルは「君ってホントに面白いねえ。」と笑っていました。
そして他のグループを見学して、また私のところに戻ってきたビルが「チエコ、ありがとう。君のおかげで有名になれたよ!」言いました。「えっ、どうして?」と私が聞くと、私とビルの実習ややりとりがいつのまにかクラス中に広まっており、「ビルが出産した!」と話題になっていたのがワイス博士の耳にはいり、ビルは ワイス博士から直接「ビル、君、赤ちゃん産んだんだって!」と言われたのだそうです。私はこのことよりなにより、とても楽しそうなビルの笑顔がとても嬉しかったのです。人と人との暖かい信頼関係こそが真に人を癒すと信じている私ですが、ヒプノセラピー (催眠療法)で一人でも多くの人が笑顔になっていったらいいなあと願ってやみません。